市原指揮者の「そうだったのか! サルでも書けるゲーム音楽実演家のための大して学べない著作権講座」

 著作権が存在する著作物を取り扱う際に著作権法を意識しなければならないのは、著作物全般に言える話ではあるのですが、ゲーム音楽(以外でも著作権が消滅していない音楽全般にも言えるかもしれません)を演奏する際に知っておいた方がよい事について書いてみようかと思い立ちましたので、発作的に書いてみました。

 前提として非営利、つまりアマチュアによる入場無料のコンサートでの利用の話となります。営利目的で使いたい方は勝手に調べてください。

 ゲーム音楽を演奏する際にクリアしなければならないポイントは大きく分けて、

・演奏許諾
・編曲許諾

 この2点になります。まずは演奏許諾からまいりましょう。

 演奏許諾という言葉を聞いた事がある方は多くいらっしゃると思われますが、法律上は

著作権法第22条「上演権・演奏権」

 で定義されております。文言は、

著作者は、その著作物を、公衆に直接見せ又は聞かせることを目的として(以下「公に」という。)上演し、又は演奏する権利を専有する。

 著作者(作曲者)が作った音楽を公衆に向けて披露する権利、つまり舞台等で観客を入れてコンサートを開く事が出来る権利は権利者著作者が持っていますよという意味合いです。

(7/4 20:18加筆)
 なお、著作者は権利を第三者に譲渡したり、管理の委託をする事が可能です。譲渡した場合は、譲渡した側のことを「著作者」、譲渡された側のことを「著作権者」と言い、分離される事になります。ここでは基本的に以下まとめて「権利者」として進めていきます。
(加筆ここまで)

 ですから、コンサートで演奏する際は、権利者から「演奏していいですよ」という許可を得なければならないわけです。これは法律で定められている事ですから、絶対です。これを無視して勝手に演奏しますと、最悪の場合、著作権法違反で裁判所に呼び出される可能性が否定できません。

 先日、営業中にピアノの生演奏をしていたキャバクラがJASRACに訴えられ、裁判の末に巨額の賠償が命じられた事件がありました。ニュースでは「著作権侵害」の単語でまとめられていましたが、キャバクラの営業という営利目的で音楽を利用していたにもかかわらず、許可を得る事なく演奏していたため、「演奏権」の侵害にあたるとされたものと思われます。

 では演奏権をクリアするにはどうしたらいいのか。実はそれほど困難ではありません。日本において、多くの楽曲の管理は著作権管理団体が管理しております。本来は著作者著作権者(≒作曲者)に直接問い合わせ、許可を得る必要がありますが、それでは権利者、利用者共に手続きがあまりに煩雑であり現実的ではありませんので、かの有名な「JASRAC」をはじめとする団体に管理を委託しています。

 管理楽曲の検索は思った以上に簡単にできます。JASRACであれば、あまりUIがいいとは思いませんが、下記URLにて検索が可能です。

作品データベース検索サービス
http://www2.jasrac.or.jp/eJwid/

 作品タイトル、権利者名、アーティスト名などで検索がかけられますので、色々試してみてください。ここでは例として、「故郷の街ウル」と「ザナルカンドにて」で検索してみます。

 作品タイトルに「故郷の街ウル」と入れて検索しますと、1件の検索結果が返ってくるかと思います。もし似たタイトルの楽曲が大量にあって絞れない場合は、プラスして権利者名を入れて検索しましょう。

 タイトルをクリックしますと、「ファイナルファンタジーIII GAME MUSIC」というタイトルの画面に遷移するかと思われます。FF3に使用された楽曲がひとつの作品コードにまとめられているんですね。

 画面上部に、「演奏」~「通カラ」まで表示された区画があると思うのですが、ここが重要です。この場合、全ての項目が「×」になっているかと思います。演奏する際に確認しなければならないのが、一番左にあります「演奏」です。ここが「×」であれば、JASRACでは権利の管理をしていないという意味になります。そのため、「故郷の街ウル」を演奏したいのであれば、権利者に直接許諾を得る必要があります。

 権利者名が「植松伸夫」(植松さん、敬称略ですみません)となっていますが、だから植松さん個人が許諾を管理しているのかというと、これは難しい問題で、このケースでは、実際にはスクウェア・エニックス社に問い合わせる必要があるのですね。この部分をどう判断すればいいのかと言われると、はっきり言って出来ません。心当たりに片っ端から訪ねて回るしかありません。が、大抵の場合は、まずメーカーに問い合わせるのが一番近道であるように思います。

 次に、「ザナルカンドにて」で検索してみましょう。結果が2件返ってきますが、この場合は作品コード「091-9418-5」がそれに当たりますね。もう一方は何なんだという話は割愛します。

 作品の詳細を見てみますと、今度は「J」という表示と「×」の両方が表示されています。「J」のついている権利についてはJASRACが管理しているため、用途に応じてJASRACにて手続きをすれば、その用途での利用は許諾される事になります。従って「ザナルカンドにて」については、演奏、録音、出版といった用途については、JASRACへの手続きをすれば利用してよいという事です。

 以上が、最も簡単に調べる方法でして、さらに権利者が複数いたり、無信託、部分信託などの細かい内容があるのですが、それについてはいつか機会がありましたら。また、探したけどどうしても分からないという場合は、管理団体に直接問い合わせますと、管理楽曲か否かきちんと教えてくれます。

 ゲーム音楽を演奏する際に少々面倒なのが、例えば上記の「故郷の街ウル」がそうであるように、ゲーム音楽はほとんど管理団体に委託されていないという事です。ほぼメーカーが自社管理しているというのが実情です。従って、ほとんどのケースではメーカーに直接許可を得る必要があるという事になります。

 JASRACにいたしましても、メーカーにいたしましても、許可を得る代わりに使用料を支払う事になります。使用料は法律によって定められているわけではなく、それぞれが独自に定めているものです。ですから、管理者がOKといえば無料で許可を与える事も可能です。

 使用料の規定はそれぞれ異なり、ホールの規模などでも変わってくるため、問い合わせるのが一番です。JASRACの場合はシミュレーターがありますので、そちらで概算を見てみるのも良いでしょう。ただし、実際の請求額とは違う事がありますので注意した方がよいです。

使用料計算シミュレーション(演奏会など) – JASRAC
http://www.jasrac.or.jp/info/create/calculation/concert/event.php

 演奏許諾についても使用料についても、ほとんどのケースは権利者に問い合わせれば丁寧に教えていただけますが、どうしても分かりづらい、分からないケースもありますよね。その場合は私が力になれる範囲でしたら協力させていただきたいところです。私も大して知っているわけではないので役に立たない可能性が大きいですが。

 以上が、上演権・演奏権についての簡単な説明になります。これらをクリアしなければ、勝手に人前で楽曲を演奏してはならないという事が法律で定められているわけです。

 しかしながら、いかなるケースにおいても例外なく許諾が必要であるとしてしまっては「文化的所産である著作権の校正で円滑な利用が妨げられ、音楽の文化的発展が阻害される恐れがある」として、例外規定が設けられております。例外規定とは、ケースによっては演奏許諾が不要ですよという事です。ちなみに、文化的云々という事については、文化庁が明言しておりますので、私の言葉ではありません。

 まずは聞いた事がある方が多いと思われる条文。ゲーム音楽の演奏とは関係ないので、話が少しずれますが、編曲許諾に関連してくるのでご紹介します。

著作権法第30条「私的使用のための複製」

 第30条第1項の文言はこちら。

1.著作権の目的となつている著作物(以下この款において単に「著作物」という。)は、個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用すること(以下「私的使用」という。)を目的とするときは、次に掲げる場合を除き、その使用する者が複製することができる。

 個人的、もしくは家庭内で使う範囲なら複製、コピーしていいですよという事になります。ですから、自分で買った雑誌や小説を自分のためにコピーする行為は著作権法違反にはならないわけです。まぁ取り締まりようもないですし。なお、仕事の目的であれば家庭内であってもNGとなります。個人的用途とは認められないためですね。また、デジタルの複製の他、細かい規定がありますので別途注意が必要なのですが、ここでは割愛しますので気になる方は調べてみてください。

 第30条第1項はコンサートと関係ないのですが、ご紹介した理由のキモはこちらです。

同様の目的であれば,翻訳,編曲,変形,翻案もできる。

 となっているのですね。「個人的に楽しむ限りでは」、他人が作ったものを自由に改変してよいという決まりになっています。これを覚えておいてください。

 さて、次にご紹介する例外規定は、コンサートと密接に関わってくる条文です。

著作権法第38条「営利を目的としない上演等」

 重要なのは第1項であり、以下です。

公表された著作物は、営利を目的とせず、かつ、聴衆又は観衆から料金(いずれの名義をもつてするかを問わず、著作物の提供又は提示につき受ける対価をいう。以下この条において同じ。)を受けない場合には、公に上演し、演奏し、上映し、又は口述することができる。ただし、当該上演、演奏、上映又は口述について実演家又は口述を行う者に対し報酬が支払われる場合は、この限りでない。

 要するに、利益を目的としない入場無料のコンサートであれば、公衆に向けて舞台等で演奏してもいいですよという事です。ここがアマチュアのコンサートに密接に関わってくる条文と言えましょう。

 最後の一文に記載されている報酬の部分についてですが、交通費やお弁当代などの実費については報酬として扱われないというのが通説です。ですから、エキストラに交通費やお昼ご飯代を渡したからと言って、著作権法違反にはならないという事です。無論、交通費の名目で何万円も渡せば話が違うのは言うまでもないでしょう。それでも感謝の気持ちとしてお礼がしたいという事であれば、色々思うところや手段を講じられる気はしないでもありませんが、法の解釈論になるのでまぁアレです。

 また、実務的な観点から言ってしまえば、アマチュア団体が誰にどのような名目でいくら払ったのかなど外部に分かるはずもありませんので、内部告発でもない限り、エキストラには心ばかりの謝礼をお支払いしているケースが多く、黙認されているのが実情ではないでしょうかね。そこまで監査しようという人もいないと思われますが、厳密に言えば法律上はNGという認識を持っておいて損はしないのではないかと思います。

 なお、例外規定を著作者権利者が拒否する権利はありません。もし、法が認めても自分は認めないなどという方がいたとしたら、無視して問題無しです。勝ち目のない裁判でも何でもしていただけばよいかと思います。

 とはいえ、法律がどうのこうの言っても結局最後は人対人ですから、お互いに気持ちよくなれる範囲内で運用していけるのが一番良いのだと思います。どちらか一方の感情を害する事は避けたいですよね。

 ここから少し個人的な考えを述べますが、私が利用者の立場から権利者に向けて思うのは、法律の規定に則り公正な利用をしている限り、認めていただきたいという事です。著作物は著作者の生み出した尊いもので、その方にとって非常に大切なものである事は分かります。ですが、どのような形であれ、それを世に出した以上、100%自分のコントロール下に置く事は出来ないのです。全てを自分の思い通りにしたいのであれば、使う側に文句を言うのではなく、法律を改正する必要があると言えるでしょう。

 逆に、利用者に向けて思うのは、他人が懸命に生み出した著作物を利用しているという意識を持ってほしいという事でしょうか。著作権なんて知らない。関係ない。権利者だかなんだか知らないが偉そうにするな。むしろ宣伝してやっているんだから自由に使わせろ。そのような考えは、例え法で認められた範囲内での利用であっても、著作者、著作物に対して大変失礼であると考えます。その音楽が存在する事についての感謝やリスペクト、そして演奏にまつわる権利を理解しようとする姿勢は大切ではないかと思います。

 権利者の保護と市井の民による利用のバランスをどこでとるか、という話なのですが、現状は法律で例外規定として定められているところを基準とするほかないでしょう。法は法ですからね。

 では最後にFAQ(ファッキュー)として簡単にまとめてみましょう。

Q.ゲーム音楽を演奏したいんだけど!
A.演奏許諾を得る必要があるよ。

Q.どうやって許可取ればいいの?
A.著作権管理者に問い合わせるんだよ。

Q.著作権管理者って誰だよ。
A.日本の音楽の大半はJASRACだよ。でもゲーム音楽は違う事がとても多いよ。

Q.それじゃ分かんないから詳しく。
A.以下の可能性が考えられるよ。

 1.著作権管理団体(JASRAC等だよ)
 2.メーカー(直接問い合わせるしかないよ)
 3.その他(作曲者本人等だよ。不明の場合は諦めるしかないよ)

Q.権利者にお願いすればそれでいいの?
A.ほとんどの場合は使用料を支払って許可をもらう事になるよ。

Q.使用料っておいくら万円?
A.メーカーによりけりだよ。JASRACの場合はシミュレーターがあるよ。

Q.権利者に聞いたらダメだって言われたんだけど。
A.諦めるしかないよ。

Q.アマチュアで入場無料のコンサートなんだが。
A.だったら演奏許諾は不要で自由に使えるよ。

Q.入場無料だけどお金を払ってエキストラを呼ぶぞ。
A.じゃあ演奏許諾が無いとダメだよ。

Q.入場無料でエキストラには交通費とかご飯代だけを渡すんだけど。
A.それなら演奏許諾無しでおkおk。

Q.ホール代とか高いから入場料を100円にして少しでも足しにするよ。
A.演奏許諾を取らないとシバかれるよ。

 ここまでよろしいでしょうか。

 というわけで「サルでも書ける」と銘打ったように、上記の概要については文章にするから長いのであって、専門知識がなくとも、知ろうとすれば誰もが知ることが出来る内容であり、さほど難しい事ではありません。それを説明するだけでもこれだけ長くなってしまったので、そろそろ終わりたいと思います。しかしながら、本エントリーだけ読んで「じゃあダータのコンサートなら吹奏楽とかオケで自由にゲーム音楽を演奏していいんだ!」と思うのは少々早合点となりますのでご注意ください。上演権・演奏権というのは、既に存在するものをそのまま演奏する事を目的とした著作物に対しての条文なわけで、ゲーム音楽は演奏する事を前提に作られていないのですね。その絡みで大変複雑なのでして、次回は面倒な「編曲許諾」についての話となりますが、このエントリーだけでも思った以上にめんどくさかったので、いつになるか分かりかねます。気になる方がいらっしゃいましたら、期待せずにお待ちください。

 というような事を集まって話し、理解を深めようというイベントなんてやってみたら面白いんじゃないかなとか思うのですが、やりたい人いますかね。

市原指揮者の「そうだったのか! サルでも書けるゲーム音楽実演家のための大して学べない著作権講座」」への4件のフィードバック

  1. るる

    ゲーム音楽でも、楽譜が出版されているものは、必然と非営利の演奏承諾も許可されていることになります。
    市販の楽譜を使って改めて演奏承諾を得ずとも非営利の演奏会を開くことは問題ありません。
    市販の楽譜に手を加えて演奏会を開く場合は、非営利でも編曲と演奏の承諾を得る必要があります。
    編曲された市販の楽譜で演奏会を開く場合は、編曲承諾は編曲者側が得ており、市販されているものなので、演奏の承諾も得る必要はありません。
    演奏の承諾を得る必要がないというのは、著作者がその権利を放棄しているわけではなく、市販の契約をする時点で非営利の演奏承諾をしているからです。

    返信
  2. かんた

    無料演奏会をしているアマチュア団体でも、固定の団費を集めているところが大半だど思いますが、その場合団体としての収入にあたるので個人の利用の範囲にはならないと言われた事があります。
    実費を割り勘ならいいようですが。

    返信
    1. 185usk

       な、なんだってー!?

       うーん、それは私の考えでは、足元を見られている可能性ありだと思います。
       例外規定の条件は以下です。

      ・「上演」「演奏」「口述」「上映」のいずれかであること(「コピー・譲渡」や「公衆送信」は含まれない)
      ・既に公表されている著作物であること
      ・営利を目的としていないこと
      ・聴衆・観衆から料金等を受けないこと
      ・出演者等に報酬が支払われないこと

       団体で団費を集めてそれを演奏会に利用する事はどの条文にも当てはまりません。ですので、条文の解釈上は全く根拠がなく、そのように法が適用される事は無いでしょうと言っておきたいと思います。

       ですが、これもまた誰も裁判をしたことがなく、判例がないと思われますし、私は法律家ではありませんので、100%確定的な事は言えませんので、その点はご了承ください。

       それから、書き込みを拝見する限り、著作権法第30条と第38条が一緒になってしまっている気がいたします。例外規定は複合的に満たす必要があるものではありませんので、第38条を満たしているのであれば、個人的用途であるか否かは関係がないという事になります。

       以上、よろしくお願いします。

      返信
  3. ピンバック: 市原指揮者の「サルでも書けるゲーム音楽実演にまつわる著作権についての考え方の提案など」 | 亮曰く

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