市原指揮者の「サルでも書けるゲーム音楽実演にまつわる著作権についての考え方の提案など」

 さて、前の二回はゲーム音楽を実演する際に関係してくる「演奏」と「編曲」を取り巻く著作権の問題と処理について取り上げてみたわけですが、あくまでガチガチの法律論でした。はっきり言ってしまえば建前の世界になるわけです。今回は実態論的観点から個人的見解を交えて触れてみたいと思います。前の二回と比べて主観性が多分に含まれますので、正しい正しくないはあまり気にせず、もし何かを考えるきっかけになればと思います。そもそも世のため人のためではなく、書いてみたかったから書いただけですので、何の足しにもならなくても別に問題ありません。

市原指揮者の「そうだったのか! サルでも書けるゲーム音楽実演家のための大して学べない著作権講座」
http://blog.185usk.com/2014/07/post-27867.htm

市原指揮者の「そうだったのか! サルでも書けるゲーム音楽実演家のための大して学べない著作権講座」第2回
http://blog.185usk.com/2014/07/post-52879.htm

 ゲーム音楽実演に対しての措置を明言しているメーカーが二社あります。日本ファルコムと任天堂です。

◆日本ファルコム

 日本ファルコムは、いくつかの場合を除き、自社管理楽曲の全てをフリーで開放するという、驚くべき施策を取っております。営利目的ですら使えるというのですから驚愕です。詳細につきましては各自下記URLをご覧ください。

ファルコム音楽フリー宣言 – Falcom
http://www.falcom.co.jp/music_use/

 コピーライト表記さえすれば、使用料も許諾手続きも不要であると。ユーザーからすれば自由に音楽を利用でき、メーカーからすればゲームと関係がない場で自社の名前が明示される事で、事の大小はあれど自社の知名度アップにも繋がるという、どちらも損をしない構造になっていると思います。しかし、ユーザーから支持され、知名度アップになるとはいえ、機会損失を考えるとかなりの英断であるとは思います。ごいすーです。実際天秤にかけたとき、どちらが大きいのですかね。気になります。

 使用例として下記の記載があります。

・ライブ、コンサートで楽曲を演奏(プロ・アマ問わず)
・コンクール、発表会などの課題曲、自由曲として楽曲を利用

 この時点で演奏利用(上演権)は明らかに認めているという事になります。では編曲(同一性保持権、編曲権)についてはどうでしょうか。「4,331曲(2014年3月26日現在)」という膨大な楽曲数を開放しているうち、公式の楽譜が出ている曲数は非常に限られているわけでして、これを同一性を保持できる「公式の楽譜が存在するものに限る」と解釈するかどうか微妙なところです。

 そこで禁止事項を見てみますと、「楽曲を編曲する行為」という内容は含まれておりません。そのうえで、FAQには下記の記載があります。

Q2.自分でアレンジしたものを販売又は配布しても良いでしょうか。
A2.たとえアレンジしてあっても、楽曲そのものの販売及び配布はできません。

 言い換えれば、アレンジ自体はしても構わないが、それを販売、配布してはならないという事になります。

 以上の要素をまとめますと、規約に合致している限り、演奏形態に照らし合わせた編曲については認められると解釈して問題ないかと思います。ファルコムさん、ありがとうございますありがとうございます。

◆任天堂

 任天堂につきましては、法律で認められた範囲内であれば、許諾を得ずに演奏してよいとウェブサイトにて明言しています。参考URLは下記。

Q&A(その他のご質問) – Nintendo – 任天堂
http://www.nintendo.co.jp/n10/qanda/others/

任天堂のゲームの音楽を演奏会で演奏してもいいですか?

任天堂では基本的に個人のお客様に個別に許諾を差し上げることは行っておりません。楽曲の使用につきましては、法律により認められた範囲内での使用に留めていただき、それを超える利用につきましては控えていただきますようお願いいたします。

 これは当然ながら、

著作権法第38条「営利を目的としない上演等」

 に該当する場合と解するのが適当でしょう。法律で認められている以上、法に従った公正な利用は認めますよという事ですね。まぁ当たり前の事なのですが、企業の見解として明言しているメーカーは他に無い気がします。全ては調べていないのでアレですが。他にあればお知らせください。

 ここで重要になってくるのが、質問の文言です。これが、

「任天堂のゲームの音楽をイベントで流してもいいですか?」

 であれば、CD等、既存の音源、つまり原盤権(説明は割愛します)の話になると思うのですが、そうではないわけです。よろしいでしょうか。

「任天堂のゲームの音楽を演奏会で演奏してもいいですか?」

 と書いてあります。何の演奏会なのか、ピアノなのか、吹奏楽なのか、オーケストラなのかは明言していないですね。しかしながら、任天堂楽曲の公式の楽譜というものは、ピアノを除きほとんど出ておらず、演奏しようとするのであれば、形態に沿った形にアレンジしなければならないのが実情であり、このようなFAQを公開する以上、それは任天堂も前提として理解されているものと思われます。

 つまり、消極的な許容であり、編曲をしなければ演奏出来ない以上、「編曲については暗示的に了承している」と解釈するのが妥当であろうというのが私の結論になります。

◆スギヤマ工房

 少し脱線しますが、そういう意味ではスギヤマ工房はすごいのです。公式の楽譜があるのだから、それ以外は認めませんよと。気持ちが良いくらいバッサリです。確かに、オケや吹奏楽、アンサンブルやピアノの楽譜が用意されている以上、ぐうの音も出ないわけです。すぎやま先生が、この形態で演奏してほしい。これ以外の形態では演奏してほしくない。と魂を込めて楽譜をかかれている事については最大限尊重すべきです。しかし、それでも既存の楽譜が全楽曲を網羅しているわけではなく、楽譜の無い曲はどうしたらいいのだ、楽譜が出版されない限り永久に演奏が出来ないのかという問題は残るわけで、演奏をしたい側からするとそこが非常に大きな不満であろうかと感じます。

◆二社に共通する点からの解釈と提唱

 話を戻します。日本ファルコム、任天堂、両社とも編曲を行ってよいとは明示しておりません。しかし、スタンスの違いはあれど、暗示的に許可をしていると考えてよいのではないかと考えられます。大切なのは、どちらも(特に任天堂は)個別具体的な話をするのではなく、グレーにしてくれているという事です。趣味であれば常識の範囲内でやってくださいよと。私はこれをさらに推し進め、

「目的の形態の楽譜が存在しない楽曲の演奏許諾が得られる場合、編曲許諾も暗示的に与えられる」

 という解釈を提唱してみたいと思います。もちろん厳密な法解釈では違うのですが。しかし、そうでなければ楽譜が出版されていないのに演奏許諾を与えるというのはおかしな話になります。楽譜の無い曲の演奏許諾だけを与えた時点で矛盾が生じるわけで、無意味な許諾となるわけです。

◆強すぎる同一性保持権

 もし同一性保持権を強行に主張し、編曲を絶対に認めないのであれば、ファミコンの楽曲についてはチップチューンを除いて永久に実演する事が不可能となりますし、さらに言えば、元がデジタル音源の楽曲については全てがそう解釈されてしまいかねないわけです。例えばスーパーファミコンですと、我々にはストリングスの音色で聞こえたとしても、あくまでスーパーファミコンの音源がオリジナルであり同一性保持の対象になると思われますから、スーパーファミコンを用いた発音でない限り、同一性保持権を侵害していると判断されるかもしれません。

 これは実演という行為に対しては非常に不合理でありまして、本当に厳格に同一性保持権や編曲権が運用されなければならないとするのであれば、演奏するたびに内容が異なるジャズの世界は明日にでも滅亡する運命となります。その他、ミュージシャンがライブで洋楽を違った楽器構成でカヴァーする。芸人がテレビでアドリブで替え歌を唄う。辺りも該当するものと思われます。そもそもゲーム音楽は実演を念頭に置いていない音楽なのですから、実演を念頭に置いた法律を当てはめろという方が無理があるのだと私は感じています。

 同一性保持権や翻案権について考えるときに私が以前から具体例として挙げているのが「タモリのボキャブラ天国」です。ひょっとすると番組を知らない世代の方もいるかと思いますが、暇だったらググってみてください。果たしてあの番組は、全ての替え歌ネタにおいて同一性保持権をクリアしていたのか。十中八九していないでしょう。ネタの全てが「権利者の意に反しない」ものだったのか。そんな事はないと思います。ちなみに、替え歌で有名な嘉門達夫さんは、許可が降りずにCDにできない曲でも、ライブでは披露するそうです。許可が下りていない以上、おそらく無許可でしょう。ただ、ライブのみOKという許諾もあるようですし、あくまで個人的な想像にすぎない事はお断りしておきます。

◆ボキャブラが無許諾である可能性

 ボキャブラは許諾を得ていないというのも私の想像ではありますが、そう思う根拠はあります。前回触れたように、同一性保持権は著作人格権に属する権利となり、著作者が他人に譲渡できない権利になります。ですから、同一性保持権の侵害を主張できるのは、JASRACでもレコード会社でもなく、著作者、つまり作詞した本人のみという事になります。例えばサザンオールスターズの曲であれば、管理委託先のJASRACや所属のアミューズではなく、(その多くは)桑田さん本人から許可を得る必要がある事になります。法律の法律上は。

 ただし、同一性保持権と違い、編曲権は第三者に管理を委託できますので、編曲権の委託を行うにあたり、著作者は同一性保持権については行使しないという慣習がある可能性はあります。とはいえ、厳格な法運用を元に話をするのであれば退けられますから、それを前提に話を進めます。

 ではボキャブラの番組中で使う全楽曲について、著作者に直接お伺いを立て、許諾を得られた曲だけを使用したのか。まずありえないでしょう。恐らく、後からクレームが来たら謝罪し、該当箇所をお蔵入りにするなどの措置で済ませたはずです。そうした理由から、まず無許諾、ないし業界の慣習的な利用の範囲であると見てよいと考えてます。その意味では、「タモリ倶楽部」の”空耳アワー”も恐らく厳密にはアウトなのではないかと。元の音源を流して違った歌詞を表示するという行為が果たして法律的にどうなのかは分かりませんが。余談ですがどちらもタモさんの番組ですね……。

 にもかかわらず、これらが許容されている(?)であろう背景には、これも前回触れましたが、音楽における同一性保持や翻案(編曲)については、持ちつ持たれつのグレーゾーンとして業界の暗黙の諒解で認められている(いた)という見立てにならざるを得ないわけです。

◆コピーバンドにも厳格に適用されるのか

 サザンオールスターズの例をもう少し進めてみます。サザンのコピーバンドを結成してライブを行ったとしましょう。バンド譜はほぼ全曲出版されていますから、その楽譜の通りに演奏すれば問題ありません。しかし、ライブですからオリジナルのシャウトやら客煽りのセリフやら何やら加えるのがごく一般的な事であると言えるでしょう。しかしながら「おふくろさん騒動」で見たように、原曲に無いセリフやシャウトを加えたり、次の曲との繋ぎを勝手に作りますと、厳密にはその時点で同一性保持権や編曲権の侵害であるとされ、裁判に持ち込まれても文句が言えません。しかしながら、サザンのカバーでライブをやる際、バンドないしライブハウスがJASRACに演奏許諾を得る事はあっても、桑田さん本人から同一性保持権の許諾を得られるでしょうか。また、得ている人がプロアマ問わず果たしてどれだけいるのでしょうか。親交のあるミュージシャン以外皆無でしょう。では、演奏許諾のみでカバーライブを行う事は違法だからやめた方がよいと思う方はいますでしょうか。

 そしてもう一つ、著作権法違反は親告罪であるという性質が挙げられるでしょう。親告罪とは、権利者本人以外は訴え出る事ができない罪であるという事です。裏を返せば、権利を持つ者が文句を言わなければ、法に反しても不問であるという事になります。前回ご紹介した「大地讃頌事件」や「おふくろさん騒動」は、同一性保持権を保持している著作者本人が申し立てたから事件になったのです。だからといって訴えられなければ合法という事でもないわけでして、面倒なところですのでここでは論じません。もしかしたら次回で触れるかもしれませんが。

◆世の中はグレーである

 さて、いくつか例を挙げてきましたが、私は基本的にこの世の中はグレーなものの集合体だと思っています。シロクロはっきりしたものだけで構成されているものなど、ほとんど存在しないわけで、生きとし生ける者デジタルではなくアナログなのです。著作権法違反だからジャズの演奏は許されないという人はいますか? 芸人のネタを違法だと指摘する人はいますか? ボキャブラ天国を問題視する人はいますか? 嘉門達夫は犯罪者だと罵る人はいますか? 空耳アワーは無許諾だから打ち切れと思う人はいますか? 大きなお金が絡むプロの世界でもそうなのですから、ましてや趣味であるアマチュアの世界ではどうでしょうか。もしそのような著作権原理主義者がいるなら、全力でヲッチさせていただきますので、ぜひともそういった活動を展開してみていただきたいものです。

 世の中にはシロクロはっきりさせるべき事と、そうでないグレーでよい事があるのだと私は思うわけでして、それを一方の都合で強い立場から大上段に語り、世論を統制せんとする人がいるのならば、その行いは本当に、多くの善良なる一般ユーザーの音楽利用のためになっているのですかねと疑問を呈さざるを得ません。

◆アマチュア活動とは

 また、最近ではゲーム音楽実演に関わるアマチュアの方々において、著作権法第38条に合致するアマチュアによる趣味のコンサートであっても、完全にシロでなければならない(言うまでもありませんがプロや営利目的の活動は話が別です)という意見が支配的になりつつあると小耳に挟んだ事があります。あくまで「そんな話があるらしい」と聞いただけですので、それが事実かどうかは実際に声や議論を聞いた事がないので分かりませんが、もし事実だとすると、果たしてそれがアマチュアの担う音楽的文化活動にとって100%プラスなのか、このまま進むべき道なのかという事について再考する余地はあるかと思いますので、もし次回があれば考えてみたいと思います。私は、アマチュアの趣味の活動が自らを厳しい規制の方向に推し進めていく事にはあまり賛成ではありません。無論、一人ひとりが著作権意識を持とうとする事は重要であり、とても良い事であるという事は強く主張しておきたいと思います。

 末筆ではございますが、具体例として挙げさせていただきました嘉門達夫さんには心より御礼とお詫びを申し上げる所存です。ハンバーガーショップとか大好きですので、違法性の告発をしたり、disってるわけではない事を何卒ご容赦ください。また、タモさんにも何の罪もございません。あと、バイキングの打ち切りはまだですか?

 ではまた次回があれば。

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