緊急事態宣言下でのコンサート開催の記録と舞台業界への支援の無さ

 緊急事態宣言が出されるかどうかの瀬戸際でこんな記事を書いたわけですが、

二度目の緊急事態宣言が出ると舞台関連は相当やばいかもしれない | 亮曰く (185usk.com)

 その後、緊急事態宣言が発出され、さらに延長となりました。

 発出時点で、イヴェントについては収容を5,000人、もしくは50%までを上限として公演を開催して問題ないということで、壊滅的な打撃は避けられるのかなと思ったのですが、これが意外とそうでもありませんでした。

 結局、自治体毎の判断により、利用中止や閉館となる施設があり、また緊急事態宣言下であるということで、自主的に中止となる仕事があったりで、私は結局2月は無職となりました。これで1度目の緊急事態宣言時と合わせて7ヶ月半無職です。無職を免れた期間も仕事が1/5程度に減少しており、ここ1年間、まともに稼働出来ているとは到底言えません。

 7ヶ月半もの期間、働けるのに仕事が無いって信じられますか? それも、行政の下した判断によってです。お金の問題もさる事ながら、音楽が出来ないという辛さ。こと指揮自体に関しては、楽器と違って家で練習出来るものではない(と私は思っています)ので、振らなければ腕がなまっていってしまう、勘が鈍っていってしまうという恐怖と戦わねばなりません。

 現在、飲食業には1日6万円もの支援が行われています。ですが、舞台業界には何の支援も行われていません。これは、決まりを守ればイヴェントを開催してよいとしているからという理屈なのだと思います。強制すれば保障が必要だが、そうでなければ必要ないという理論なのでしょう。
 ですが、国が強制していなくても、仕事場の利用停止を実質強制され、仕事を失っているという側面は表沙汰になっていません。
 さらに、緊急事態宣言が発出されることにより、外出を控えるという人が増えるのは当然で、であればコンサートを開催しても客足は見込めない。だったらやめようと考える主催者がいるのも当然です。また、主催者としても緊急事態宣言下でコンサートをやるのは感染拡大防止の観点から控えようという考えになることも当然あります。

 このように、風が吹けば桶屋が儲かるなんて話ではないレヴェルで直接的に仕事が制限されているにも関わらず、やめろと言っていないので問題ないという理屈で一切の支援が行われていないというのが現状だと私は捉えています。

 それでも私は去る1月24日にクラシック音楽のコンサートを開催しました。定員571名のところ、満席を200名まで抑えました。オケの配置も、プロオーケストラは元に戻しつつある中、奏者間を1m空け、本番以外は徹底してマスク着用等々、オーケストラとして出来うる対策を行いました。

 練習を行っている期間中に二度目の緊急事態宣言が発出された後、ホールの対応次第では本番を中止にせざるを得ないと覚悟もしていたのですが、練習、本番で利用するホールは閉館となはらなかったため、ぎりぎり開催出来たというのが実情です。

 ぎりぎりというのは、20時以降の外出自粛要請により、ホールから20時までの利用にするか、キャンセルするかという選択を迫られたためです。
 というのも、夜枠は18時に利用開始で20時に終われというのです。さもなくば返金するからキャンセルしろと。ちなみに、利用時間短縮でも差分の返金は無しとのことでした。
 18時に集合し、準備をして練習開始が18:30、片付けから撤収を考えると19:30には終了せねばならず、1時間しか練習ができないことになります。1時間で一体何ができるのか。かといって練習を中止とすれば本番開催が危うくなります。

 いずれの選択肢も無理だと伝え、ホールと交渉を行った結果、ホールAでは、20時までというのはあくまで要請なので、その日は通常通り使ってよいということになり、ホールBでは、前の利用者がキャンセルしたため、時間を前倒しで利用してよいということになりました。

 しかしながらこの過程も面倒事の連続でした。

 まずホールBと交渉したのですが、当初、横浜市の通達なので私たちにはどうにもできないの一点張りで全く話にならず、時間の前倒しを提案しても、ホールの利用時間は法令で定められているので変更は出来ないと強く言われました。
 感染拡大防止に協力すべく要請に従おうとした場合、割引もしません、前倒しも出来ませんではあまりにおかしく、あなたでは話にならないので、どこと話せばよいかと訊いたところ、横浜市に直接言ってくれと言われたので、では翌日市役所に電話しますということで一旦落ち着きました。

 翌日の朝、ホールBから留守電が入っていたので折り返すと、昨日対応した者の案内は間違いであったとのこと。そもそも管轄は市ではなく区であり、市に電話をしてもどうにもならない。時間の前倒しも特例ではあるが、20時までに撤収してもらえるなら可能であるということでした。また、20時までというのも強制ではなく、緊急事態宣言前に申し込みが済んでいる分の利用については、どうしてもという事情がある場合は通常通り使用することも可能ということでしたが、どうにか20時に終われませんかと。
 私だって無用な口論はしたくないですし、今後も使うホールですから、極力良好な関係でいたいです。
 結果、1時間半ならオケにも影響が少ないと判断し、前倒し案で決着しました。

 次にホールAです。

 こちらも当初は、20時で切り上げ、差分の返金は無しか、キャンセルかの二択でした。ホールBとの交渉で得た情報があったので、20時というのは要請なのか強制なのか。横浜市の通達ではあくまで要請であると聞いていると伝えたところ、それを受けての対応はホールの考え方次第であり、当ホールは20時で閉館し、スタッフは全員帰宅することに決めたという回答でした。
 では実質強制ということなのか。ホールに強制する権利はあるのか。利用時間短縮に応じても返金が無いことに問題は無いのかと訊くと、歯切れの悪い回答しか返ってきません。
 そこで、前倒し案を提案したところ、前の団体が現在キャンセルの手続きを行っているので可能との持ちかけが。ただし、その場合は前の時間帯と本来使う時間帯の両方の料金がかかるという回答。20時閉館に協力したいという話をしているのに、そんな無慈悲な話があるでしょうか。
 1コマ分の料金で済ませるなら、前の時間帯に利用してもらうしかないと言われたのですが、それだと5時間ずれることになり、流石に団員に周知している予定に対する変更幅が大きすぎ、出席できなくなる団員が増えることが予想されるため、無理と判断しました。
 しかしながら、最悪それしかないと思いつつ話を続けていると突然、時間通りに使用してよいと言われたのです。いや、全員帰るんじゃなかったんかいとツッコミを入れたい気持ちはあったのですが、ではありがたく利用させていただきます。ただし、極力早めに終われるよう、こちらも努力しますということで決着しました。(実際、当日は早く終わらせました)

 さて、これで全ての問題が払拭されたかと思いきや、実際の利用に際し、ホールBで問題が起こったのでした。
 20時撤収という話で利用となり、19:50には完全撤収を済ませたにも関わらず、翌日、ホールから多大なクレームが入りました。
 曰く、20時に職員も全員退館したいのに、ぎりぎりまで使うとは何事だと。こんなことがあると次からホールは貸せないかもしれないとまで言われました。
 私が直接言われたわけではなく、たまたま近くにいた団員が叱責を受けたとのことで後から報告をいただきました。(もし私が言われていたらどうなっていたことか)
 だったらまず最初からそう言っておいてほしいですし、20時に帰りたいってなんだそれと。飲食店だって20時営業終了ですが、それはお客さんの話でしょう。20時に従業員まで帰れという意味ではないでしょう。ホールの決まりなのかもしれませんが、なんなんでしょうか、このおかしな話。

 以前の記事にも書きましたが、指揮者はマスクとフェイスガードの両方をつけて奏者から5m離れろだとか、ちょっとでも頭を使えばあり得ないことが分かるような、まさしくお役所仕事といえる酷い対応を昨年から受け続けてきたのですが、ここに来てますます不審感が募ってしまいました。
 言い争いみたいな状態にならなければ利用できないなんて、おかしくないでしょうか。そんなことまでしてイヴェントを開催しようという人がどれだけいるでしょうか。そもそも、それはおかしいのではと言えない人だったら、諦めるしかない状況だったわけです。
 これでは、舞台関係者を支援しよう、応援しようなんて気持ちは行政にはまるでないんだと感じてしまいます。閉められないから使わせてやっているという気持ちなのでしょうか。
 ですが、我々はそういった施設を使うほかない、弱い立場です。個人や一団体の活動を支援してくれるホールなどあるはずもなく、ただただ平身低頭してありがたく使わせていただくしかないのです(私は言うべきことは言いますが)。実際、公共施設は利用料が安く、割と取りやすいので大変助かっています。スタッフの方もいい人はいい人ですし、通常利用するだけなら問題はないわけです。いつもお世話になっております。ただ、こうしたイレギュラーな事態に非常に弱いなと強く感じます。仕方ないんでしょうけどね。

 そんなこんながあったコンサートでしたが、結果として100名を超えるお客様にご来場いただくことが出来ました。
 何の知名度も無いアマオケの旗揚げ公演であること、有料公演であること、緊急事態宣言下であることを考慮すれば、素晴らしい結果が出たと言えると思っています。
 ですが、これが緊急事態宣言下でなければと思う気持ちもあります。緊急事態宣言が出ているのでと来場を諦めた方も多数いらっしゃいます。
 感染症蔓延下におけるコンサート開催のノウハウを身を以て得ることが出来たのは大きな収穫でした。ですが、コンサートで最も大切なのは演奏です。同じメンバーによる同じ演奏は未来永劫、二度と出来ません。悪化する一方の感染状況から、断腸の思いで参加を断念する団員もいました。無念の極みです。願わくば最高の状態で沢山の方に見ていただきたかったと思うのは当然でしょう。

 というわけで、現状、様々な問題を乗り越えなければイヴェントを開催できない状態にあります。普通にコンサートを開催するよりも遥かに労力がかかっており、それでいて実入り(お金ではなくて)が少ないという状況が続いているわけですが、それでも国は入場人数以外の制限はしていないので支援はしないという態度を取り続けています。

 制限をしていないとはいえ、国の対応によって無職状態が発生していることは事実です。私だけではないでしょう。
 最終的には自分の努力不足や自業自得という話になるかもしれませんが、飲食、観光ばかりが支援され、舞台人に対する支援策が一切出てこないのはやはり納得のいくものではありません。
 1日6万円くださいとは言いません。せめて、行政の対応によってだったり、感染拡大防止の観点から自粛したことによって減少した収入については何かしらの策を考え、対応していただきたいと願うばかりです。