黒船室内管弦楽団 第8回定期演奏会

 先日の黒船のアンケートをようやく読む。回収率高し、かつ絶賛ばかりで嬉しい限り。

 クラシックの宿命か、高齢の方が多いが、あれくらいの年代の方は若い頃にクラシックをレコードで聞いて育った世代。だから、カラヤンだとかの巨匠、ベルリンフィルだとかの世界最高峰のオケが比較対象になる。それでも万雷の拍手を頂けるのは、ひとえに団員の皆さんの努力や気持ちの賜物。指揮者はこういう音楽をやろうと身体で表現して導く係であり、実際に音を出すのは奏者。指揮者というのは本当に不思議な立ち位置で、指揮者がどんな有名人でも、奏者が音を出さなければ音楽は成り立たない。だから本番は奏者の力あってのもの。

 とはいえ、褒められればやはり嬉しいものだ。毎回アンケートに開演前の話、指揮のどちらにもお褒めの言葉が書いてあって、とても励みになる。

 音楽とは関係がない部分で嬉しいのが、「声が良く、解説がとても楽しくて分かりやすい」というもの。特に声が良いと言っていただけるのは、自分の声が好きではない私にとって驚くべき評価で、自分が良くないと思っている部分を逆に褒められると驚いてしまう。
 好きではないけど変えられないのでまぁ普段気にしてはいないのだが、どうも浮ついた高い声で落ち着きがなく、聞きやすかったり、聞いて気持ちの良い類の声ではないと思っているので、たまに声を褒められることがあると少しは人並みになれたようで気持ちが軽くなる。

 「増々黒船全員が一丸となった印象で、市原さんの手先?体?になってきなぁとしみじみ嬉しかったです」というご意見があった。
 手先というのは子分や下っ端を指すので、恐らく「手足のようになってきた」と言いたかったのだと思う。指揮者は脳や心臓となって司令やエネルギーを送り出し、それぞれのパートはそれを受け取って活動する手足等の器官だろうか。脳や心臓は自分では移動もできない。声も出せない。真ん中に居座って周囲にエネルギーを放出し続けるのである。なるほど。ただ、音楽の場合はそれぞれの器官にも強い意思がある。人体とは似ているようで少し違う。
 間違っても飼い主と飼い犬のようになってきたということではなく、指揮者とオケの関係性が抜群になってきたという褒め言葉で間違いない。嬉しい。

 「楽員の誰一人として指揮を見ていないのに演奏できてしまうところがある意味スゴイ」というご意見もあった。これはちょっと違う。もし客席から奏者が指揮者を無視しているかのように見えても、実は見ている。肝心なところでは目線が合うし、そうではないところでも直視せずとも視界に入れて見ている。さらに、見ていなくても感じることが出来る。これが音楽の魔法だ。だから、ある意味スゴイ。書かれたことに間違いはない。
 でも練習を始めた当初は本当に見ていない。これもある意味スゴイ。

 「小編成なのに十分な(すごい、力強い)迫力だった」これは確かにそうかもしれない。ホールの良さも手伝ってか、あの人数で出るであろう音のイメージを超えていたのではないかと思う。
 恐らく、機械を使って測定すれば、そこまでの音量が出ているわけではないと思うのだが、やはり空間に漂う空気、舞台にいる一人一人から発せられる熱が充満すると、凄まじい音が出ているように感じるのだ。だから生演奏は良い。音楽は生で聞いた方が良いというのはここだ。

 少し前まで、管(木管、金管)と弦のバランスが良くないというご意見も散見されたが、最近は見られなくなってきたどころか、バランスが良いというご意見が増えてきたように思う。これも奏者がどんどん良くなってきていることの証左であろう。
 それから、私自身は2年(?)ほど前から、リハーサルでホールの客席側に行って響きやバランスをチェックするのをやめ、自分が指揮台で聞いている音、バランスを信じることにした。これも何か一因になっているのなら、良い方向に向かっているのだからで、そうして良かったと思う。

 「今日の市原先生の暴走度は普段と比べて100何%?」むむ、この方はかなりの市原通なようで嬉しい。でも今回暴走はしていないのでご愛嬌。
 今回はベートーヴェンの1番と3番「英雄」というプログラムだったわけだが、特に英雄の評判が圧倒的に良かったようだ。私も1番が100%なら、英雄は120%の力を出せたのではないかなと思っている。だから、今回の暴走度は120%。180%は目指したいところだ。
 あ、練習の時から、英雄の4楽章のコーダは速いと言われたな……。ベートーヴェンが悪い。

 そんなわけで、足を運んでくださった皆様に、良い時間を過ごせた、楽しかったと思っていただけたなら何よりも嬉しい。そして更に、舞台で演奏する皆さん、スタッフの皆さん、関わった全ての人が楽しかったと思えたのなら何より嬉しい。私は、クラシックでもゲーム音楽でもバンドのライヴでも、どんなコンサート、どんなイヴェントでも、関わった全ての人が幸せになれるものにしたいということを理想にしている。100%達成出来ているかは自分では分からないし、それは周りが判断することだけれども、それが少しでも体現出来ているならこれほど幸せなことはない。そのうえで指揮をすることが最高に楽しいのだから、言うことはない。

 だから音楽はやめられない。