何十年の時を経て万年筆が復活した話

 3年ほど前に安い万年筆(本当に安物)を購入して、以降たまに使っていたのですが、書いているうちに軸が緩くなって、数文字書くたびに締め直さなければいけないような代物で、かつどうも書き味が良くない(途中でかすれる)ので、使うのが億劫になって段々と使わなくなってしまっていました。やっぱり安物はダメなんだなぁ。もっといい万年筆が欲しいなぁと最近考えていました。
 そんな時にふと、その昔、父親から万年筆を貰ったようなと思い出し、筆立てを漁ってみたところ、とても古そうな万年筆が出てきました。恐らく40年以上前のものだと思います。

 使ってみようと軸を外してみると、見たこともない金属製の構造が。なんだこれ。換えインクじゃないのか? と思いつつ、メーカーを調べてみてもよく分からない。ノンブランドなのかと思いきや、目を凝らしてよーく見るとParkerと彫ってあるではないですか。おお、パーカーだったのか!
 ということで換えインクを買いに行ったものの、金属製のなんてどこにも売っていない。やっぱり古い万年筆だから、規格が変わってもう使えないんだなと諦めていたのです。
 で、今日、ある商店街を歩いていたら、「万年筆専門店」と書いてある文房具屋があるではないですか。これはと思い入店。換えインクを探すもののやはり見つからず、諦めて帰ろうと思ったのですが、専門店なんだから何か知っているかもしれないと、店主に尋ねてみました。
 すると、パーカーは今の換えインクも使えるはずですよと教えてくださったのですが、生憎パーカーの換えインクを切らしていてね。これ多分大丈夫だから。差し上げるので試してみてください。と、2本だけ残っていた換えインクをおもむろにくださいました。
 えっ、いやお代をお支払いしますよ! と言ったのですが、大丈夫ですと。今度入荷しておくのでよかったらまた来てくださいと。
 え~っ!? そんなことある!? と思いつつ、では試しということで、ご厚意に甘えてありがたく頂きますと、2本頂いてしまいました。
 でもこういうプラスチックのじゃなくて、金属のやつなんだよなぁ。合わなかったら今度返しに行こうと思いつつ、帰宅して万年筆を見てみると、やっぱり全然違う。
 金属部分の中に換えインクが入っているようにしか見えず、でもその金属がどうやっても外れない。昔の製品だけあって、換えインクの一本一本が贅沢な作りなのかな。やっぱりダメだったかとがっかりしかけたのですが、よくよく見てみると、金属製のパーツと頂いた換えインクが同じ大きさであることに気が付きました。
 あれ、これもしかして使えるのではと思い、金属パーツを外して代わりに装着してみると、ぴったりではないですか。これ待ってたらインク出るかな。出なかったらぬるま湯に一日付けて再挑戦してみよう。と待つこと30分ほど。……なんと、出ました。遥か昔の万年筆、大復活です。しかも書きやすい。
 これはと思い、さらにつっこんで調べてみたところ、元々装着されていたのはコンバーターというもので、インク瓶からインクを吸引して補充するタイプの器具だったことが分かりました。金属部分が押せるようになっていたのですがインクを絞るためではなく、吸引の際に押すためだったのかと納得です。
 コンバーターも換えインクも、どちらも規格が統一されているので使用可能なようです。換えインクが無くなったらインク瓶を買ってコンバーターを使ってみたいと思います。

 しかし、手入れ一つせずに何十年も眠り続けていた万年筆が、インクを入れるだけですぐ書けるようになるなんて、さすが万年筆の名前は伊達じゃないですね。
 これも今日立ち寄ったお店のおかげです。受けた恩は返すべし。今度お礼をしにいかねば。インク瓶を買いに行こうかな。
 しかし素晴らしい商売だなと思います。私もお客様を相手にするときはこういう風に接していきたいなといつも思っているのですが、今の時代これをやると不公平だとか言われたり、そういったクレームを避けるために均一に対応することがよしとされていますが、やっぱりこれだよなと感じました。個人商店の醍醐味でもあるんでしょうけどね。
 世間の流れだとかはもちろんありますが、気にすることなく、自分が良いと思う行動で人に喜んでいただこう。やっぱりそれが商売の根本だよなと感激したのでした。

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