ジョーカー→バットマン ビギンズ→ダークナイト→ダークナイト ライジング→キング・オブ・コメディ

 11月に「ジョーカー」を見て、役者のレヴェルの高さにズギュンとやられたんですね。
 なんと言ってもホアキン・フェニックスの演技に尽きる……と思いきや、なんだこりゃと度肝を抜かれたのが、ロバート・デ・ニーロ。
 わたしゃ常々映画やゲームは予備知識無しで見るようにしているので、予告編なんて当然見ないし、誰が出ているとか全く知らずに初見を迎えるわけです。
 劇中のテレビ番組で司会者(デ・ニーロ)が最初にカメラの前へ出てくるときの所作があまりに衝撃的で、「なんだこの役者!!? とんでもないのが出てきたぞ!」と腰を抜かしそうになったのですが、見ているうちに、「あれ、随分太ってるけどこれデ・ニーロじゃないか?」と思い始め、エンドロールを見たらやっぱりデ・ニーロだったという具合。
 しかし、デ・ニーロの演技力、とんでもないです。具体的に何がと言われると困るのですが、もう全てが完璧。あの1分に満たないシーンを見るためだけに、もう一度映画を見てもいいと思うくらい。最高中の最高。

 で、映画を見たあとは一気に情報を調べたりするという見方をしてるわけですが、当然浮上してくるのが「バットマン」シリーズなわけです。
 どういうわけだか、クリストファー・ノーランのバットマン三部作をスルーしていたので、お正月に一気観しました。AmazonPrimeかNetflixのどちらかにあるだろうと思ったら大間違い。サブスク系のサイトには無いことが判明したので、仕方なしにBDを借りて観ましたよ。100円なので結果安く済んだけど。

 見た結果、なんで今まで観てなかったんだろうと悔やまれるくらいの傑作でした。そもそもクリスチャン・ベイルが好きなので見ておくべきだった。大方の評判どおり、ダークナイトが頭半分くらい抜けてる感はあるものの、どれもきちんと作り込まれた超良作。全部順番にセットで観るべきと確信。体内時計が一番短く感じたのは、実時間で一番長いはずの「ダークナイト ライジング」(原題は“The Dark Knight Rises”なのね)。ということは、ライジングは面白かったと考えて間違いないでしょう。
 いきなりヒマラヤとか青い花とか影の同盟とか、バットマンのアイテムも物理的にそれ無理だろとか、ツッコミたくなる要素がないわけではないですが、それは作品世界なので置いておくとして、とにかく良かった。今アメコミ原作というと、どうしてもマーベルを思い浮かべてしまうのですが、骨太で大人向けの作品。バットマンに対して何やら偏見があって未見だという御仁は観るべし。でもマーベルはどうしても観る気がしない……。(偏見)

 で、そのまま「キング・オブ・コメディ」に雪崩込む(「タクシードライバー」は遥か昔に視聴済み)という至って正常な辿り方をしたわけですね。大体そういう映画の辿り方をして、色々と広がっていくということを繰り返しております。

 キング・オブ・コメディも面白かった。この映画、興行的に大惨敗を喫したそうなんですが、どうしてだか全く分からない。地味っぽいかったからかな。とにかくデ・ニーロがキチゲェすぎてすごい。

 主人公については二通りの捉え方があって、どっちと取るかで全く意味合いが変わってきますね。

1. 本当に自分にコメディの才能がある選ばれし人間だと思っていた。

2. 本当は自分が底辺にいるのだと自覚しつつ、それを認めたくないからネガティブな思考は一切排除していた。

 2で、ただただリタの気を引きたかっただけなのだとしたら、本当に可哀想な主人公だったなと。1だったらガチのキチゲェだなと。しかしあの前向きさは尋常ではない。またしてもデ・ニーロにやられたのであった。
 1も2も、ここ10年くらいで目にしてきた、何を言われても怒られても説教されても嫌われても「気づきをありがとう」「心から感謝」とかなんとか言ってプラスだと思おうとするバカにどこか似ていますね。それもまた、どちらかなのでしょう。

 さらに、オチは虚構であるというのが私の見方です。カメラの前に出たラストカットでの演出的に、あれは現実ではないでしょう。現実だとすると、それはそれで風刺の効いたラストになるなと思うので、それでもいいと思います。

 さて、ジョーカーを見たときは、タクシードライバーの影響受けまくりじゃないかと思ったんですが、キング・オブ・コメディを見た今では、キング・オブ・コメディの要素の方が強かったという印象です。ジョーカーは前半がキング・オブ・コメディ、後半がタクシードライバーといった感じ。

 で、一連の映画を見て思ったんですが、「ジョーカー」のジョーカーは、「バットマン」のジョーカーじゃないですね。ジョーカー誕生秘話だとすると、色々辻褄が合わなすぎる。制作側は観客の想像に任せるというスタンスみたいですが、私は否定派ですね。

 映画としては、社会的弱者がどん底まで追い詰められた挙げ句、無敵の人が誕生しましたよというだけの話でしょう。公開時に、ジョーカーに共感する人多数とかなんとか言われていましたが、それは危険でしょうよと。
 私は、人間一歩間違えば犯罪を犯すし、人殺しもすると思っているので、毎日のように起こる犯罪について全く自分と無関係だとは思っていません。ともすれば、自分が加害者だったかもしれない。が、ジョーカーに共感したり憧れたりしてはいけないでしょうよ。
 無論、世に蔓延る、搾取する側の傲慢、無関心、無慈悲等、この世界は多くの問題と矛盾を抱えていて、解決していかねばならないのではあるけれども、だからといって人殺しや犯罪を肯定したり、憧れたりしてしまえば、それこそ暴力こそが法である荒んだゴッサムシティのような世界になってしまうわけで、共感するというのは危険だと思うわけです。
 ジョーカーが社会的弱者の声を代弁した映画であり、世の中に強烈な問題提起をしているというのは間違いないと思います。ただ、それを受け、知恵を使って解決していくのではなく、暗黒面に惹かれて暴力に堕ちて行ってしまってはいけないのだと。そこは人として強く思う次第です。

 それぞれの映画に対する個別の感想は暇があればいずれ。無いと思いますが。