【追記あり】日本劇伴交響楽団のアニメシンフォニアが進撃できなかったとかなんとかいう話を聞きました

 日本劇伴交響楽団が元気に炎上していると聞いて見てきました。

 前提としてお断りしておきますが、人づてに日本劇伴交響楽団という団体ができたらしいという話は聞いていましたが、諸事情によって情報は見たくありませんでしたので、今回初めてオケについて詳しく知りました。

 問題は《進撃の巨人》の名前を大々的に使用してチケットを売っておきながら、公演3日前に演奏取り消し、他タイトルの演奏に差し替えを行いながら返金はできないとしたところのようであります。昼夜公演で曲が異なるため通しで購入していた方もいたようで、ほぼ同じ内容となってしまったのも痛いところです。

 日本劇伴交響楽団の言い分としては、単なる演目の変更であって、アニメの曲を演奏するコンサートであるという目的は達しているため、払い戻し対応はないということですね。

 クラシックのコンサートに行く方ならお分かりかと思うのですが、演目や出演者の差し替えで返金はほぼないですね。ですから、理論的には劇伴響の対応は分からないでもないです。

 悲惨なのが進撃目当てに1万円もする高いチケットを購入されたお客様でありまして、ご愁傷様と言うほかない感じがいたします。

 その他にも、オーチャードホールは日本一の音響だと宣伝文句に使っておきながら、舞台にマイクを立て、コンサート全編通してスピーカーから音を出していたですとか、進撃が記載されたパンフレットを有料で販売していたですとか、楽譜の盗用疑惑が浮上したりですとかほうぼうから出火しているようですが、それは庭の木が燃えたですとか、物置が焦げたという延焼といった感じでありまして、やはり母屋を焼いている最大の燃料は曲目差し替えでありましょう。

 今回の件で代表者の名前が表に出まして(サイトに記載はありましたが)、過去から断片的に情報をご存知の方であれば、「日本BGMフィル、JAGMO、日本劇伴交響楽団、プロデューサー、あっ……(察し」と色々なパーツが繋がった方も既にいらっしゃるようです。

 その辺りにつきましては何も述べませんが、そんな様々なしがらみを抜きにして、一人の外野として騒動を追ってみた正直な感想を申し上げますと、劇伴響のお客様への対応は大失敗と言って差し支えないのではないかと思われます。

 私だったらどうしたか、適当に考えてみました。適当なのででまかせです。

 まず雲行きが怪しくなった時点でお客様に一報を入れておくべきでしょう。意図的ではないにせよ、演奏は無理という結論に至った日ではなく、公演3日前の告知、それも金曜日の発表では計画的と見られ、非常にマイナスイメージです。これは芸能やマスコミの世界ではスキャンダル隠しの常套手段だと思うんですよね。

 演奏不可という結論になった場合、第一に返金対応を検討するでしょう。しかし、返金に応じたら大赤字で借金まみれになってしまう可能性があるため、現実的には無理かもしれません。

 返金が無理ならどうするか。一にも二にも誠心誠意謝るしかないのではないかと思います。代表者として、自分の言葉で経緯を説明して、謝る。当日会場でもステージに出て謝ります。

 自分に非がある非が無いという話ではないんです。演奏できなくなったのが不可抗力であったとしても、自分たちに落ち度がなかったとしても、現実にチケットを購入したお客様が千人単位でいるわけです。誰が一番悲しむのか。誰のためにコンサートを行うのか。何のために音楽をやるのか。それを真摯に考えることができるならば、主催者として謝るという結論を一度は通るはずです。

 ですが、日本BGMフィル末期に経営を見事立てなおしてくださった敏腕プロデューサー氏は自尊心がとても高い方々とお見受けいたしますので、自分の非を認めたり、人前でごめんなさいと謝るなんてことは多分できないのではないかと勝手な想像をしております。disってるんじゃないですよ。私が受けた感想ですよ。何か問題が起きると、自分は悪くない、こいつがやったことだというアツい責任のドッジボールを実際に目撃しているので、なおさらです。

 仮に謝ったとしても、怒りが収まらない方はたくさんいらっしゃるでしょう。その場合は、どうしましょうね。そこまではちょっと考えられません。実際そうなった時に改めて考えるしかないです。

 クラシックのコンサートに行き慣れている方々からは、返金なんて無いのが当たり前という意見も出ているようですが、その結論は少し早計なようにも思われます。

 そういった方や劇伴響は、クラシックの常識を前提に考えているようですが、アニメやゲームのコンサートで「オーケストラ」という媒体を使用しているからといって、クラシックの常識が通用して当然だと考えていいのだろうかという疑問が私にはあります。

 そもそも新しいことを始めようという意欲から生まれている活動ではないんでしょうか。口では新しいことをすると言いながら、結局トラディショナルな常識に縛られた活動をするのは、いかがなものでしょうかと。どうせやるなら既成概念なんて全部壊していいと思います。なぜ静かに聞かなきゃいけないのか、なぜ楽章間で拍手をしてはいけないのか、全て一から考えなおすチャンスなのに、その権利を放棄しているのはもったいないさすぎる所業です。

 確かに、過去から引き継ぐべきいいことは無数にあろうと思いますが、今回のような演目変更に関して、クラシックの常識をそのまま当てはめてしまいますと、アニメファンをバカにしているかのような対応に見られかねず、ましてや逆ギレとも取られかねない対応をしますと、アニメを単に金儲けの道具として使っているだけなのではないかと穿った見方をされてしまうような気がいたしますし、もう既に思われ始めてしまっているようです。

 クラシックでも演目やソリスト、指揮者の変更は、本当にやむを得ない場合のみであって、頻繁に行われるものではありません。主な理由としては、病気や事故といったものが挙げられます。それはもうお客様も納得できるのではないでしょうか。金払ったんだから骨折れてるのに指揮しろとかヴァイオリン弾けとか思わないですよね。私は肋骨にヒビが入った状態でリハや本番をやったことならありますけど。で、指揮者やソリストが変わりますと、付随して演目が変更になることもありますが、突然演目だけが直前に変わるということはまずありません。

 今回の件ですと、進撃の曲が目当てでチケットを購入した方にとっては、該当曲が演奏されないとなりますと、チケットは単なる紙くず同然の価値になってしまうのではないかと想像されます。いくら免責事由に該当すると言いましても、やはり納得できるものではないでしょう。

 そんなわけで、クラシックでは返金無しが常識でも、アニメやゲームのコンサートの常識として当てはまるかというと、違うのではないかという気がしてなりません。いや、むしろ違うものであると考えた方がよいのかもしれません。クラシックでは常識だからと言われると、そうなのかと思ってしまうかもしれませんが、よくよく考えてみると「だからなんなんだ」、「クラシックじゃねぇから」という話のはずなのです。

 そもそも、権利だなんだという事情などお客様にとっては一切関係ないのであって、極論してしまえばその曲を聞けさえすれば事情なんてなんだっていいわけです。いいことも悪いことも両方です。新日本BGMフィルで「任天堂から許諾を得ました!」なんていちいち言わないですよ。お客様に無関係な事情は極力開示するものではないと思いますし、ましてや自分たちこそ被害者ですとすら読める声明を発表するのは、曲が聞けずに悲しい思いをされている方々の神経を逆撫でするだけではないでしょうか。

 逆に、こっちこそ被害者ですという立場を明確にするのであれば、対象者をはっきり示し、私たちは悪くありませんのでクレームはあちらにどうぞというくらいの強い姿勢が必要なのではないかと思う次第です。

 私たちは被害を被った側です。何があったのかは言えません。誰が悪いのかは言えません。私たちは悪くないので返金もしません。では、被害者として怒りや悲しみのやり場が無いわけで、結局劇伴響にブーメランの如くクレームが戻ってきて多段ヒットするのは当たり前の話であろうと思われます。

 本当に自分たちが一切悪くないというのであれば、お客様には返金のうえ、相手側にその分の損害賠償請求をするという道もあるように思います。自分たちに落ち度がなく、相手のせいで損害が発生したというならできるでしょう。

 いずれにせよ、本件で一番泣きを見てバカを見て泣き寝入りするしかない最大の被害者は、誰あろう最も大切にせねばならないはずのお客様であるという事実はきちんと受け止めなければならないだろうと思います。

 本件のおかげで他の団体の信用まで下がることがあるとすれば、とばっちりもいいところです。せっかくこういった分野でもプロのコンサートが増えてきてさらに盛り上がりを見せている中、生きている音楽を扱う関係上、ただでさえ制約が厳しいところ、イベントの企画自体が難しい方向に進んでしまいかねない危険性を孕んでいる出来事であるかもしれません。

 極論してしまいますと、今回の件で免責なので返金なしで構わないという前例ができますと、例えば「映画音楽のコンサートをやります! 後半ではスター・ウォーズ/フォースの覚醒の曲の演奏を世界最速でやります!」と告知を行ってチケットを売り捌き、前日に「やっぱり無しです! 死霊の盆踊りの曲に差し替えます! 返金はしません! 免責です! 映画音楽のコンサートだからセーフです! ルーカスフィルムがどうしてもダメだって言うから私たちは被害者です! 残念です! 悔しいです!(ザブングル加藤の顔で) ンー! ンー!(パッション屋良の顔で)」ということが成り立ってしまいますので、ちょっと危険すぎるんではないでしょうか。そんな団体のチケットは怖くて買えませんよ。

 結論といたしまして、本件が炎上した最大の理由は、進撃の巨人の曲を演奏しなかったことでも、返金しなかったことでもなく、劇伴響のお客様対応が、考えうる中で最低のものだったということではないかと思います。現在の状況に至ることなく、上手く収拾を図ることはできたと思うんですよね。

 どういう風に落ち着くのか、私は面倒なので追いかけませんが、ある程度の決着がついたら誰か教えてください。

 一般社団法人、バーチャルオフィスなど、先立つ基盤がなくてもなんとかやっていけるという、私が日本BGMフィルで苦心して編み出したフォーマットをそのまま引き継いでくださっている団体のようですので、どうにか立ち直ってくれることを心より望んでおります。がんばってください。

2015.7.24 8:41追記

 友人から情報が寄せられましたので、追記いたします。

 PMF(パシフィック・ミュージック・フェスティバル)という歴史のある国際的なクラシックのイベントがあるのですが、つい先日開催された2015年のイベントにおいて、指揮者の変更があり、それに伴い演目の変更もあり、チケットの払い戻しが行われたとのことです。こちらですね。

指揮者変更のお知らせ
http://www.pmf.or.jp/jp/news/2015/05/change-conductor.html

 「特例として」と書いてありますので、やはり通常の対応ではないということに変わりはないのですが、指揮者を目当てに購入した方への配慮であると言えるでしょう。ドクターストップなんて、それこそ主催側に一切の非はないわけで、今回の件に当てはめますと、逆に指揮者に損害賠償請求をしかねない勢いですが、アップされているコメントを見ましてもそんな雰囲気は微塵もありません。指揮者、お客様、主催者といった全員の信頼関係が大切なのではないでしょうか。返金いたしません、指揮者が悪いです、我々は被害者ですと発表したとしたら、見た人はどう思うでしょうね。

 また、あるコンサートでは、演目変更を行った際、変更を決断した指揮者自らがステージでお客様に丁重にお詫びをしていたとのことです。当たり前だと思うんですけどね。