映画「ミスト」


 「後味の悪い映画」の話が出た時に必ず名前が挙がる「ミスト」。どんなもんだろうと思いつつ見ていなかったのですが、ようやく見ました。

 見た人が全員鬱になるという前評判通りすぎて、これはちょっと二度目は見たくないというか、数時間立ち直れなかった。間違っても落ち込んでる時になんて見ちゃダメ。ゼッタイ。

 途中はいいです。パニック映画としてよく出来ています。面白かったです。化け物もおぞましいけど、結局人が一番怖いだろという普遍的なテーマを扱っているし、極限状態に置かれた群集心理を見事に描いていたと思います。

 逆に、もう結末を知っているだけに、二度目を見ても平気なのかもしれないけども、それでもやっぱり積極的に見ようとはどうしても思えない。見なけりゃよかったとすら思ったくらい。

 グロい場面もいくつかありますが、根本はパニックサスペンスですので、ホラーが苦手な人でもまぁ大丈夫でしょう。グロシーンは重要ではないので、目をつぶっておけばよいです。エンディングの後味の悪さについて覚悟のある人はご覧あれ……。

 あ、ネタバレ部分の最後の文章を先に記載しておきます。

 後味は最高に悪いですし、二度と見たくない映画ですが、脚本は練ってあり、面白い映画だったと思います。なので評価が難しい。超面白い! 絶対おすすめ! とは思わないですが、「二度と見たくないけどつまらないわけじゃない」。そんなバカな評価があるかという。あるんだなこれが。フランク・ダラボンマジックかな。

 さて、ネタバレになるのでこの先はご注意を。

 笑うところじゃないかもしれないんですけども、店内に入ってきた小型プテラノドンみたいなのを撃退するために、モップを松明にしようとしてすっ転んで可燃性の液体をぶちまけて自分に引火して大惨事になった兄ちゃんの場面は、「あーあー、こいつやらかした」と笑ってしまいました。ホラーあるあるすぎるというか、お約束というか、笑うところですよね、あれは。そのせいで薬局に突入することになり、さらなる犠牲者と酷いグロシーンを見せられることになり、挙句の果てに決死の覚悟で薬を持って帰ってきたのに、死ぬ場面も描かれないまま「お前が寝てる間に死んだよ」で済まされるという、もうお前なんなのという。

 でもね、ここ重要な場面だと思うんです。火傷した兄ちゃんは、あまりの激痛と苦しみに、もう一思いに銃で殺してくれと願うわけですが、主人公は、最後まで諦めちゃいけない、薬取ってくるから頑張れと、彼の願いを聞き入れないわけです。これね。多分重要です。

 で、大問題のエンディング。え、マジで? まだ諦めるなよ。早いって。やめろって。無理無理。子供撃つとかないから。と思いながら見ていたのですが、やってしまった。で、自分も化物に食われておしまい。ここまで頑張ったのに、なんて救われない話なんだろう、確かに鬱だ、と予想をしていたのですが、え、まさか、それありなの? マジで? やめてくれよ。という、さらに上を行く救われなさが待っているとは思わなかった。なんかもう、そんな残酷なエンディングあるかよと。ああなれば、主人公はもう発狂して頭がおかしくなるか、自殺するしか道は残されていないと思うんですね。

 なんでああいう選択をしてしまったんだろうなぁと。あそこに至るまで、選択や決断が正しいか正しくないかは置いておくとして、主人公はなんとしてでも生きようとしていたのに。まだ余裕あったでしょう。とりあえず車の中にいれば安全なのだったら、最後の最後、餓死するまではかなり時間の猶予はあったはず。何故ガソリン切れ=自殺しかないという思考になってしまったのか。

 大人はいいですよ。皆覚悟出来てたんだから。あんなバカでかい、この世のものとは思えない化け物を見たら絶望するでしょう。世界は終わりだと。まさにクトゥルフの怪物であって、人の恐ろしさや異形の化け物を連続で見続けてきたらSAN値がマイナスに振り切れてしまって、死ぬしかないと思うかもしれない。

 ここで出てくるのが火傷のシーンとの対比でして、あの時は、他人が死ぬほどの苦しみを味わい、殺してくれと懇願しているのに、まだ諦めずに出来る限りのことをやろうと説得をした主人公。それが、最後のシーンではあっさり諦め、死を受け入れ、それが最善の道だという決断を下してしまう。前述のように、もう平常心を失っていたと言えるのかもしれませんが、なんでだよ、なんでだよという気持ちで見るしかなく、霧が晴れて来た時に、ほらー! だからダメだって! ああああぁぁもううううぅぅ!!! もう遅いじゃん!!! どうすんだよこれ! と、どこにもぶつけることの出来ない気持ちで押し潰されそうになりました。全員が鬱になるポイントがここですよね。全員死んで終わりなら、ここまで鬱にはならなかったと思います。単に、悲しいお話だったね……でおしまいです。なんて残酷な話なんだろうと思いました。希望というのは時に残酷なものです。

 一番可哀想なのは子供ですよね。何も悪いことはしていなくて、「僕を化け物に殺させないで」というフラグ臭さ満載な台詞があったにせよ、そういう意味で言ってねえしという感じでしょう。あの台詞はちょっとあざといというか、さすがに引っかかりますよね。絶対後に繋がると思ったもの。「僕を殺さないで」とか「何があっても生き延びよう」じゃあダメなんですよね。エンディングありきの映画であり、全てはエンディングの瞬間のために設計されているということでしょう。どんな映画でもそうなのですが。ただ、ちょっとそれが強引な部分があり、その台詞に代表されるように、歪な部分もあったのかなと。

 見終わって、監督はこの映画で何が言いたかったんだろうと考えたのですが、フランク・ダラボンなので、絶望感を味わう観客を見てニヤニヤしたかったということはないでしょうから、やはりシンプルに「どれだけ絶望的な状態になっても最後の最後まで絶対に諦めるな。諦めなければ救いはあるはずだ」ということなんでしょう(M.ナイト・シャマランなら分からないけど)。主人公を含め、大人は最後の最後で諦めたんです。異常なものを見続けたせいで、諦めのハードルが通常より低くなってしまった。これでダメなら終わりと決めつけてしまった。少なくとも車の中にいればまだ数日、下手すれば数週間は生きられたのに。そうしたら助かっていた。でも諦めた。だからああいう結末になった。という因果。

 とまぁ、私たちは快適な映画館や自宅で他人事のように見ているからそう思えるのであって、本当に同じ状況に置かれたらどうなんだろうかと。冷静な判断なんて出来るのだろうかと。そんなもの、実際にそうならなければ分からないことなので、考えるだけ無駄なのですが、どんな状況だろうと冷静な心は持ち続けたいですし、頭ごなしの決めつけは排除しなければと思いました。

 オリーもそうです。あれだけ大活躍してかっこいい役柄なのに、脱出の場面で巨大ザリガニみたいなのにあっさり殺された。えぇ、そんな、オリーサン……となる場面ですが、彼は直前に宗教オバサンを射殺してるんですね。よくやった! と思う場面であり、恐らく劇中で最もカタルシスを得られる場面であり、そうなるように作られてるんです。観客は見事に導かれていきます。オリー最高だぜ! と。すごいですよね。ですが、人を殺してしまったからにはぬけぬけと生き延びることは出来ませんよということなんでしょう。でも、ああしなきゃ逆に自分たちが殺されてたでしょう。それでも罰は受けねばならないということでしょうか。正当防衛だとも思うんですけどね。二発目のヘッドショットはいらなかったかな。そういうわけだから、人を扇動して殺人を犯した宗教オバサンもやっぱり死ぬしかないのです。それが映画ミストの掟。多分。

 もう一度見てみないと確信は持てませんが、この映画、主人公の行動を逆から見ていくと、ことごとく不正解の道を選んでいたように思います。終盤、車で脱出するシーンで、化け物が迫ってくるところ、危険を冒して銃を手に入れるわけですが、普通の映画なら、その銃は後で活躍するべきなんです。あの時拾っておいたから助かった。さすが主人公だ。ああいう見せ方をしたんですから。映画の文法ってそういうもの。でも、その銃のせいで全員死ぬことになった。あの時無理して拾わなければ助かっていた。やりきれなさが増してきます。全編を通してそういう作りになっている可能性が高いです。もう一度見ようとは思わないので、誰か検証してください。

 そんなわけで、後味は最高に悪いですし、二度と見たくない映画ですが、脚本は練ってあり、面白い映画だったと思います。なので評価が難しい。超面白い! 絶対おすすめ! とは思わないですが。「二度と見たくないけどつまらないわけじゃない」。そんなバカな評価があるかという。あるんだなこれが。フランク・ダラボンマジックかな。(了)