オケで酷い目にあった話


※プライバシーに配慮し、団体名、個人名は仮名です。

 その日は黒舟の練習日で、実家から稽古に行くことにしていた。家には小学校からの友人が遊びに来ていた。しかしどうも家の様子がおかしい。構造は同じなのだが、作りや調度品がやたらと豪華になっている。友人からも「なんかおかしくない? 昨日と違う(昨日もいたのかは不明)」と言われる。明らかにおかしいのに、おかしい原因が分からず、何となくおかしいという風にしか感じない。

 違和感がありながらも、とりあえず稽古に出なければいけない時間になったため、家を出る。家を出てすぐにスコア一式を忘れたことに気づき家に戻る。ベートーヴェンの7番と、何か有名な交響曲。これだけ持っていけば大丈夫なはずだった。しかし練習計画表を見ると、全部で20曲くらい羅列されている。「サンダーバード」やら「キャッツ」やらといった名前が記載してあるのだが、スコアを持っていない。これはどうしたことかと思ったところで、まだスコアを受け取っていないことを思い出した。今から残りの曲をさらう必要があるのかとぞっとしない気持ちで家を出た。友人は家に残るらしい。

 家を出ると、どういうわけか萩原さんと一緒に歩いていた。近所の公園でライブをやっているので、立ち寄るようだ。公園に着くと、金網の向こうのバスケットボールコートのようなところで女性2名が屋外ライブをやっていた。金網の中には入れないらしい。ヴォーカルとギターの2名なのに色々な音が聞こえてくる。おかしいなと思い、コンクリートの柱を隔てた次の金網に行くと、国元さんが一人でベースを弾いていた。バンドのベース担当らしい。なぜ同じバンドなのに一人違う場所でベースを弾いているのか。国元さ~んと声をかけるが、目もくれずひたすら黙々とベースを弾いていた。

 色々と意味が分からなかったが、そろそろ行かないと間に合わないのでと公園を後にし、駅へ向かった。二人で電車に乗り込むが、座席がどうもおかしい。連結された長椅子ではなく、壁から出ている個別の椅子になっていて、しかも座面が通常の椅子の四分の一くらいしかない。かろうじてお尻の後ろにひっかけて体を支えることが出来る程度の大きさだ。他の乗客もおり一人分しか空いておらず、市原さん座りますかと言われたが、どうぞどうぞと譲って萩原さんに座ってもらう。椅子がおかしいからではなくて、単純に譲っただけだ。さも普通の椅子であるかのように座る萩原さん。どうかしている。

 10分ほど走って駅につくと、向かっている先であるオケ、黒舟のメンバーが乗ってきた。フルートの小城さん、ヴァイオリンの戸塚さん、チェロの馬井さん。それと、見たことがないイケメン風の男が一人。どうも黒舟の人らしい。気づくと萩原さんはいなくなっており、おかしな椅子は落ち着いた風合いの木製の高いスツールに、そして目の前は木製の高めの円卓になっていた。

 円卓をかこみ、黒舟のメンバーと雑談していると、その見知らぬ男のことを「やっぱりイケメンだよね~」などと言い出し、そんな話ばかり続けるので、イケメンン撲滅委員会の会員であるところの私は段々苛々してくると共に非リアっぷりを最大限に発揮し「やはり人間見た目ですからね~」、「所詮そんなもんですよね~」というような話を始める。しまったと思ったのか、馬井さんがなんだか懸命に「そんなことないですって」などとフォローしようとしていたが、今更遅いのだ。

 空気が悪い中、電車は終点に到着した。終点は切り立った山に挟まれ、その間に川が流れる渓谷の駅だった。この渓谷を抜けた先が稽古場のようだ。5名で石の上を飛び移りながら渓谷を歩き、最後は半ば崖のようになっている斜面を登ると、体育館のような建物があった。ここが黒舟の稽古場だ。

 時間を見ると、集合時間に2分遅れてしまっていた。しまったと思い、体育館の下駄箱に行くと、場内は静まり返っている。とても入っていける雰囲気ではないので、5人で鉄の扉の前で様子を伺っていると、どうも指揮者無しで稽古が始まっているらしい。中を覗くと、稽古を仕切っているのは西田敏行だった。なぜだ。指揮はしていない。

 私以外の4名は、曲が止まるタイミングで次々に入っていく。私はなぜか自分から入っていくことはない、呼びに来てくれるだろうと思い扉の外で待っていたのだが、誰も来る気配がない。これでは仕方がないと自ら場内に入る。入るのだが、私不在で稽古は続く。オケの後ろで立って聞いていると、西田敏行が「なにやっとんのや。入れ」と指揮をするように促してくる。この時点で私の精神はかなり参っている。

 その時やっていた曲は名前も聞いたことがないミュージカルで、どういうわけかヴィオラの木島さんが黒い猫っぽい衣装を来てソロを熱唱していた。めちゃくちゃ上手い。こんな才能があったのかと驚く私。知らない曲だしどうしようと唖然としていると、なんだかよく分からないが、木島さんのリードで唄が終わり、その曲の稽古も終わったらしい。

 次の曲は「サンダーバード」だという。スコアを貰っていないし、さらってもいない。「サンダーバード」は知っているし、昔吹奏楽で指揮をしたことがあるからなんとかなるかもしれないとスコアを広げると、全く訳の分からない譜面だった。解読不能だろう。しかも途中から世界史の教科書のような内容になっており、その文章を指揮者が朗読するという曲らしい。朗読するだけならなんとかなると腹をくくって始めるのだが、何が書いてあるのやらさっぱり分からない。

 1872年、ロロルサウョロワナルスァ縺薙繝繝繝縺(むんだろそいいぬかどりな)のアンドレアス・ポポヒョロホファノ・ルロゥワナャサダ莨願陸縺輔(いじかきおおむすかええはやむ)が、タキパワヌブカジャジャヴォテサラ縺翫繧医(いんばうじゃぶじょがやなゃんはろん)と条約を結ぶ。

 といっためちゃくちゃな名前とむちゃくちゃなルビが振ってあるというもので、それをひたすら読まなければならなかった。当然、すんなりと読むことなどできず、ロロ……レ? ……ルサウヒョ……ウョロ……と酷く詰まりながら読んでいくと、西田敏行が「なんで読めへんのや。お前さらってないやろ」と厳しいツッコミを入れてくる。黒舟の皆も白い目で私のことを見てくる。

 ああ、これは終わりだ。と死にたい気持ちで、それでも朗読を続けている時に、これは夢なのではとふと気付いたのである。これは夢なんだから、知らなくて当然だし読めなくて当然だ。いくら間違えたって平気なんだ! と自覚したところで目が覚めた。

 夢だからオチも何もないですが、本気で怖かったです。誰か夢診断求む。はやく。