劇団粋雅堂公演【M|C|L|D】


 劇団粋雅堂の2年ぶりという公演。初回と千秋楽にお邪魔させていただいたのですが、実は粋雅堂さんの舞台を見るのは初めてでした。

 粋雅堂さんと私の関係について、簡単に整理してみたいと思います。不思議な縁と言いますかなんと言いますか。

 粋雅堂さんとは一昔前に、お互いどう関わっていたのかよく覚えていないのですが、あるプロジェクトを通じて知り合ったのですね。私が指揮者として活動を始めた一年目だったような気がしますが、まぁそれはもう深い闇の中に沈めて置き去りにしたものですので、思い返すのはやめておきましょう。

 でまぁ、そのプロジェクトの打ち上げだか何だかで、オケの収録スタジオの最寄駅近くのビル2階にある掘りごたつの居酒屋で呑んでそれっきりだったのですが、2年ほど前にトゥイッターで久しぶりに再会(?)しまして、ネット上での緩い繋がりを保持したまま今に至ると。色々見ていたら、何年かの間にすごく有名になられたのだなぁ、とても努力されてきたのだろうなぁと、何だかよく分からない感慨に耽った記憶があります。

 昔話はこれくらいにして、舞台の話に戻しましょう。

 先にお断りしておきますが、私は演劇を見た記憶なんて、小学校だか中学校だかの授業の一環として、どこぞのホールで見せられたものくらいしかない、完全に観劇素人でありますので、舞台を見て理解するために最低限必要な素養すら持ち合わせていない人間の率直な感想となりますので、あてになさらず適当に読まれるのがよいと思います。

 また、粋雅堂さんはとても頭の回転が早く、むつかしいことを考えておられる方(皮肉や嫌みではなく敬意を籠めて)でして、私ごときがその意図や裏に込められた想いが読み解けようなど毛の先ほども思っておりませんので、好き勝手書いてみたいと思います。しかも二次創作の元となった作品も知りません。ともするとご不快になられるかもしれませんが、そこはまぁ。

 ではどうぞ。

(以下敬称略)

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「初日以前」

 実は7月に稽古を見学させていただいていた。というのも、「見学など興味のある方はお気軽に」とトゥイートされており、興味があった私は馬鹿正直に行ってみたのだ。

 事前に、「普通の演劇を想像すると戸惑うかもしれない」と釘を刺されていたのだが、確かに、これは何なんだ、演劇なのかという稽古風景であった事は確かだ。部屋の中を徘徊する演者二人。ミニマルミュージックのような読み合わせ。奇しくもその日は演者の一人であるラリスズキが初参加した日だったようだ。

 奇妙な稽古風景であり、不思議なものであったと同時に、大変面白い内容で、完成形はどうなるのだろう、これは本番を見に行かねばならないという気持ちになった。その時点での私の理解としては、現代アートに近い何かになるのかといった印象であった。

「初日」

 公演会場は新宿眼科画廊。初めて行ったのだが、あの場所にあったとは知らなかった。オケのリハなどで新宿文化センターに行くときにいつも通る道だ。会場に着くと、ラリスズキが受付をしていた。開場18:30の予定が19:10頃開場。

 その日、私がそこで見たものは、二人の男女の声、音、光、漂うワインの微香、それらが混然一体となり、見る人をトリップへと誘わんとする、新しい体験だった。こんな演劇があるのか。心地のよい空間だ。

 ただ、如何せん演者、特にラリスズキの声が小さく、音響が大きすぎる場面が多かった。台詞が聞き取りづらく、舞台の奥に行った時や、後ろを向いて話す場面では、私が一番後ろの席に座り、頭上のエアコンの駆動音がうるさかった事を差し引いたとしても、「その方向から音がする」程度の認識以上のものができなかった。

 恐らく、高瀬れぃちぇるの声、ラリスズキの声、そして粋雅堂の操る音響が三位一体になったとしたら、もっともっと深い没入体験を得ることが出来たろうと思うと残念であった。

 耳をそばだてなければならない、話の筋が追えないというのは大きなストレスであるが、私は途中から受け取り方を変えた。これは音と場の作品なのだと。断片的に聞こえてくる台詞の欠片を味わいつつ、声と音と光の醸し出す空間に身を委ねる事にした。懸命に聴こうとしなくてよい。見えるもの聞こえるものを受け入れよう。すると、世界が変わった。

 あっという間の2時間弱だった。芝居の経験がないので分からないが、休憩なしでダレる事なく、緊張感を保ったまま二人芝居を完走できるのは恐らくすごい事なのだろうと思う。

 稽古で行われていた一見不可思議な行動が、見事に本番に結実されていたが、当然ながら、粋雅堂の目には本番の舞台の光景が最初から見えていたのだ。

 高瀬の存在感が良い。所作の一つ一つが愛くるしく、いるだけで目を引くというのは、それだけで才能なのだろう。ラリの声が良い。私はあの抑えめのトーンで淡々と呟く感じが好きだ。粋雅堂がまれに音響、演出を離れて舞台に干渉してくるが、予測不能で舞台を引き立てる。言葉の誤用だろうと思うが、サブリミナル的な存在だ。

 終演後、同行者と軽く呑みつつ感想を話していたのだが、面白かったし、やりたい事は分かった、良い舞台だった、しかし台詞が聞き取れなかったのが本当に残念だと、私と同じ感想を持っていた。それが粋雅堂による演出なのかどうなのか、私には分かりようもなく、そういうものなのかと思っていたのだが、同行者からこう言われた。舞台の出来というものは役者のコンディションその他によって常に変化するものであり、初日から千秋楽に向けて完成されていくものなので、行けるならば何度も見に行くのが良い、と。

 演劇と言えばドラマか映画しか頭になかった私は気づけなかったのだが、言われてみればその通りだ。音楽のコンサートと同じく、生の舞台は時間芸術であり、同じ演目であったとしても、同じ結果は二度と得られないものなのだ。となれば、もう一度見るしかないだろう。そんなわけで、千秋楽に単身お邪魔する事に決めた。

「千秋楽」

 進化、変化、変容。そんな言葉がふさわしいくらい変わっていた。役者も、舞台も。それは後ろ向きにではなく前向きに。

 ラリスズキが別人だった。空間いっぱいにはっきり通る声。「朗読」といった趣だった喋りが、「演技」に変化していた。粋雅堂による指導があったのだとは思うが、回を重ねる毎に、内なる変化があったのは間違いないと思う。たった3日という期間で人間はここまで変わるのかと感動を覚えたほどの変化だった。なんという成長力。ラリスズキは終始帽子をかぶっていたが、私は完全に脱帽だ。

 高瀬れぃちぇるの演技にも磨きがかかっていた。高瀬もまた声が聞き取りやすくなり、同じ台詞であっても抑揚のつけ方、意図的に単語を途中で切るなど変化がついていた。これもまた、初日から試行錯誤した結果なのだろう。より深く、その世界観が表現されていたと思う。

 吊るされたアクリル板、マイク、ポラロイドカメラ、銀色のバナナ、フリスクを撒き散らしたワイン。全て初日にはなかった要素だ。台本そのものも変わっていたと思う。他にも細かい違いはたくさんあったが、全てが完成形に近づけるために必要なピースであったように感じた。

 演技、演出の変化により、千秋楽は台詞がほぼ全て聞き取る事ができた。話の筋も追えた。二つ目の作品「スピノル」のクライマックス、「記録ではなく、君の記憶の中で生きていく」と力強く言う場面ではウルッとしかけた。それに対するラリスズキの返答も、本当に素晴らしかった。

 千秋楽を見終えた今にして思えば、初日はとても簡素だったのだ。初日が麺とスープだけのラーメンだったとすれば、千秋楽は青ネギ、チャーシュー、煮卵、高菜、紅生姜などが加わった、いわゆる「全部乗せ」のような印象だ。しかし骨子となる麺とスープは揺るがない。そこに粋雅堂の魂がある。

 全部乗せという表現を使ったが、だからといって一概に千秋楽が全てにおいて優れていたというつもりもない。具材の少ない純朴なラーメンを好む人もいようというものだ。少なくとも私は両方楽しむ事が出来たし、ラリスズキの声のトーンや喋り方は、聞こえさえすれば初日の方が好きだったりする。

 初日が朗読劇だったとするならば、千秋楽は演劇。初日は、誰もいない二人だけの世界の廃墟での出来事のようだった。音楽は常に流れているが、どこかしんとした静けさがあった。色は灰色と薄い青。対して千秋楽は、そこ以外にも世界があるのだと思えた。二人以外の人間の息遣いがあり、複数の色が見えた。

 このように、同じでありながら印象を異にする二つの劇を見ることが出来、いずれも楽しむ事ができたのは僥倖であったと思う。しかし、ひょっとすると、その変化までもが粋雅堂の演出なのかもしれない。演者の動きなど、劇中でもそうであったが、どこまでが演出で、どこまでがリアルなのか、読み切れない。現実と虚構の狭間にいるような感覚に陥り、それがまた、楽しかった。

 次回の作品がいつになるのか分からないが、次は一体何を見せてくれるのか、今から待ち遠しい気持ちだ。また、この作品もいつか再演してほしいと思ってやまない。今回見られなかった方、次回作は見逃すべきではないだろう。

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 とまあ、こんなところでしょうか。勝手に書きたい放題書かせていただきました。的外れだとは思いますが、私の目から見た一つの世界という事でご容赦いただければ。

 私は好きだったという前提になりますが、もし今回の舞台がマスな存在になった場合、賛否両論噴出するんだろうなという気はします。ですがまあ、新しい事に挑戦するという事はそういうものだと思いますし、そんな事は粋雅堂さんも十分にお分かりで気にされないでしょうから、どんどんやりたい事を追及して突き詰めてほしいなと思った次第です。

 あとあまり関係ないんですけど、粋雅堂さんのタフさとお酒の強さに驚愕せざるを得ませんでした。超人ですか? 初日はガチで途中で寝落ちてた疑惑がありましたが……。

 粋雅堂さん、高瀬レイチェルさん、ラリスズキさん、本当にお疲れ様でした。良い時間を過ごさせていただきました。ありがとうございました。

 で、次回作はいつですか?

 ……ところで、劇中にあった「さあて、ラーメンでも食べて帰るか」という台詞にあやかって、帰りに入ったラーメン屋を私は許さない。二度と行かないからなバカ野郎。

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