ゆげみわこ「こはくうたひ。」


 今年の春に開催した、私が指揮者として参加し、運営にも携わった、あるオーケストラの公演にヴォーカリストで参加されていた事で、歌手の「ゆげみわこ」さんという方と知り合いました。声楽家以外で歌を仕事にしている人とは、この時が初めての出会いとなりました(*1)。
 数回のリハーサルを行ううちに、この人は音譜を上手に音にする事が目的じゃなく、声と言葉、時には身体表現まで使い、真剣に人に音楽を伝えようとしているんだという事がひしひしと伝わってきて、これは素晴らしい歌手に出会ったぞと思ったのです。

 聞けば、最近NHKの連続テレビ小説「まあちゃん」(でしたっけ? 私、見てないんです……てへべろ☆)で一躍有名になった岩手県久慈市の出身で、郷土料理「まめぶ汁(*2)」を広めようという「久慈まめぶ部屋」の東京支部長(*3)までやっているというではないですか。なんだこの人は!? と謎は深まる一方でありました。

 そんなゆげさんの記念すべきメジャーデビューアルバム「こはくうたひ。」が7月に発売されるという情報をゲット! 発売日に買うぞ! と意気込んでいたものの、気づいたら予約は終了。さらに、発売後、即売り切れになり、一時入手困難にまでなったとか。しかもタワーレコードの棚に単独の索引ができたらしい! 「や」行じゃない! すげえ! で、今週ようやくゲットしたので、早速聞いてみました。
 音楽評論チックな事は全く性に合わないのですが、全曲聴き終えたファーストインプレッションとして、感想を書いてみようと思います。

 まず一曲目を聞き始め、歌声が流れ始めてすぐ、
「ああ、これライブ盤なんだ」
 と驚き、なるほどと納得すると同時に、緊張感が自分の中に流れはじめた。

 ライブ盤というのは少し語弊がある。これは私が聞いた印象による勝手な決めつけだが、恐らくほぼ一発撮り、ライブに近い感覚でレコーディングをしたのだと思う。
 その証拠に、目を閉じて聞けば、ヴォーカルをはじめ、メンバーの所作や息遣いが聞こえてくるほどのリアリティーと説得力に溢れている。
 この先は、私の直感が正しい事が前提のお話になる。間違っていたら無かった事で。

 幾重ものオーバーダブ(*4)や重厚なマスタリング、ピッチコントロールといった手法とは無縁。「これが私です」という想いを正面からぶつけられた。そんなアルバムに仕上がっている。
 いいところだけを繋ぐ事はできない、出た音を必要以上に脚色しない、自分の歌唱力を信じていなければできない、という制約(*5)と向き合った、スリリングかつエキサイティングなアルバムといえる。それを直感で感じとったため、一曲目を聞き始めた後、何ともいえない緊張感が漂ってきたのだと思う。

 スリリング、エキサイティングと言ったが、曲調はそんな言葉とは無縁だ。バラード調の曲や民謡を源とする曲が主なラインナップで、アップテンポの曲はない。
 そうと知ってから、民謡という出展元だけ見れば、なんだか古臭くて退屈そうだと思うかもしれない。しかし、残念ながら、その思い込みもすぐに崩される事になる。
 アレンジが大変秀逸で、古臭さなど微塵も感じない。オリジナル曲はいわずもがな、民謡も、曲の持つ良さを一度煮詰めたうえで、改めて食べやすく料理したようなアレンジ(*6)で、聞き飽きる事がない。
 また、民謡とはいえというべきか、だからこそというべきか、恐るべき難易度の曲も含まれており、これを一発で撮ったのかと思うと平伏せずにはいられないのである。
 仮に私がマイクの前に立たされて、このアルバムの曲を一発で撮りましょうと言われたら絶対に断る(*7)。そんな恐ろしい事はできない。ライブなら、まだ、いい。だが、その場で生まれ、その場で消え、余韻だけが記憶に残るものではなく、明確に音として残るものだ。恐ろしい。
 それをこともなげにやってしまうゆげみわこと、それをよしとしてセッションするメンバー、才能を見出したプロデューサー、発売にGOサインを出す関係者。みんなすごい。

 そんな具合のアルバムなので、ところどころに乱れはある。指揮者的な目線(*8)で聞くならば、むしろ乱れは多い。直したいと感じるところは多々ある。ピッチの揺れや外れ、出しきれなかった声、他にも色々。だが、それらを、その場その場の一瞬の判断で取捨選択しながら録音を進めている気がした。これもまた、技術だ。
 それらが気になったり、許容できない人、瑕だと考える人にはお薦めしない。
 今や歌手ではない人間がどのように唄っても、機械的に正確なピッチに正す事ができる時代だが、それは裏を返せば誰が唄っても同じという事になる。そういった流れとは対極を行く直球勝負。個性が溢れている。

 一つ言えるのは、このアルバムは他の誰でも替えがきかない、ゆげみわこの生きた音楽が詰まった作品であるという事だ。音楽とは何なのだという事を改めて問われている気がした。
 ファッションとして音楽を「流す」のではなく、心からの声を「聴き」たい人にはぜひお薦めしたい一枚。

 ってなんか評論家っぽくないですか!? ないですか!? デュフフ(*9)。
 あと、ゆげさんは日本語の響きや語感を大切にする方で、作詞はほとんどゆげさんです。一番書かなきゃいけない部分な気もするのですが、わたしゃ歌詞については専門外なので割愛させていただきました。
 でもちょっとだけ書いておくと、歌詞カード無しで、何を唄っているのか、何が言いたいのか明瞭に聞き取る事ができます。音の動きに同調しない不規則な歌詞の乗せ方や、あえて崩した発音で言葉を曖昧にするような手法はとっていないのだと思います。日本語の美しさを堪能することができるでしょう。
 なお、セカンドインプレッション以降は予定がありません。おわり。

 この辺から買えるみたいッスよ。気になったら買ってみるといいッスよ。好き放題書いたので宣伝しておくッスよ。

公式
タワレコ
HVM
Amazon

*脚注のコーーーナーーー!
*1)知り合いが少ないもので……。さらにその後も出会ってません。
*2)当たり前ですが、ドラマで有名になるより遥か昔からあるそうです。ブーム便乗商品ではないのだよ! ちなみに、とても不思議な食べ物でした。気になる人は食べよう(提案)
*3)私もコシヒカリとかへぎそばとか笹団子とか家系ラーメンとかベイスターズとかの宣伝部長になりたいのですが……。上越、横浜のみなさん、いかがですか? いかがですか!?
*4)一部曲のヴォーカルにダブルトラッキングが用いられている。それもまた良い。
*5)そもそも、本来そんなものは制約であってはならず、時間芸術であるところの音楽にとっては当たり前の事である。その時に流れた時間をそのまま盤面に固定したわけだから、まさに音楽そのものが詰まっているアルバムだと言ってよろしかろう。
*6)再構築っていうんですかね? 難しい言葉はよく分かりません。
*7)お前は歌手じゃないだろと心の中で呟いたアナタは正しい。
*8)耳線?
*9)フォカヌポゥwww

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。

次のHTML タグと属性が使えます: <a href="" title=""> <abbr title=""> <acronym title=""> <b> <blockquote cite=""> <cite> <code> <del datetime=""> <em> <i> <q cite=""> <strike> <strong>